第54回:「人生をたまわる」

知人が海外に出張したときのことです。「あなたの宗教は?」と聞かれて「無宗教です」と答えると「あなたには人生がない」といぶかしい眼でみられたというのです。

私はその話を聞いて本願寺八代の蓮如上人の言葉を思い出しました。
結び目のない糸でものを縫うと最後に糸が抜け落ちてしまうように、信心のない人生は最後に抜け落ちてしまう。抜け落ちてしまう人生にならないように結び目 をつくらなければならない。信心は糸の最後の結び目のようなものであるというのです。

私たちは自分の思うように生きたいと考えますが、実際はなかなか思うような人生を送ることはできません。縁のもよおしによってはどのような結果になるかもわかりませんし、苦しいことや悲しいことにも出遭わなければなりません。挫折感を味わうこともあります。
そしてついには老いて病んで死んでいかなければならないのです。いったい何のための人生だったのか…、空しさだけが残ることになります。

ご信心をいただくということは、自分の「人生をたまわる」ことではないでしょうか。どんなに 自分の思うようにならなくても、その人生をみずからの人生として選びとって最後まで「いのち」を尽くして生きていくことです。外国の人にいわれるまでもな く、私たち日本人も宗教の大切さを再認識して自分自身の人生を得ていくことに心がけていかなければなりません。

多くの日本人はゆるやかな信仰心をもっているために正面きって自分が仏教徒であると答えにくいのでありましょう。日本人らしい謙虚さです。そういうときには「私は仏教徒です。でもあまり熱心ではありませんが…」と答えてくださることをお勧めします。

明順寺住職:齋藤明聖