第128回:「天上天下唯我独尊」

私たちは、誰とも代わることのできない、ただひとりの人間として生まれました。それは、誰に代わってもらう必要のない、誰とも比べる必要のない私であるということを意味します。

けれども、私たちが生まれたということは、さまざまな関わりのなかを生きていかなければならないということも事実です。そういう関わりのなかで、私たちはいつも他人と自分とを比較して生きているのです。

釈尊は、釈迦族の王子として誕生しました。釈尊もまた、ひとりの人間として関わりのなかを生きることになったのです。釈尊は悩みました。人間はなんのために生まれ、なんのために生きていくのか…と。

そして、ついに釈尊は、「ただわれ独りとして尊い」という尊い者として誕生した自分を発見したのです。「独りとして尊い」とは、なにも加える必要がない、このままということです。

釈尊のことばに「われまさに世において無上尊となるべし」とありますが、それは、私たち一人ひとりが、それぞれの人生のなかで、どのような境遇であろうとも、生まれた尊さ、誰とも比べる必要のない自分に目覚めていかなければならないことを教えてくれているのです。

明順寺住職:齋藤明聖(釋 明聖)