第99回:「花びらは散っても」

明順寺「歎異抄講座」の中津功先生が、広瀬杲先生の体験をお話し下さいました。

広瀬先生のご門徒さまが、就職したばかりの娘さんを交通事故で失ったときのことです。先生はかける言葉もなく帰ってこられ、ふと思いつくままに掲示板に「無量寿 花びらは散っても 花は散らない」という金子大榮先生の言葉を掲げました。

二日後、お父さんが来られ「あの言葉は私のために書いてくれたのですか」「花びらは散ってしまった。だけど、花は散らさんようにしないといかんなあ…」「娘はお浄土へ嫁入りしたのだから」と言われたというのです。

狂乱するかのごとき苦しみのなかから、花を散らさないようにするという大きな役割を、新しく背負って生きていかなければならないという実感があったのでしょう。

お父さんの言葉に、娘さんの死を無駄にしてはならないという父親が、新しく生まれたのだと思います。

明順寺住職:齋藤明聖