第113回:「チューダパンタカ」

お釈迦さまの弟子であったチューダパンタカは、自分の名前も覚えられない、皆から「愚か者」と呼ばれ、市(まち)の評判になるほどでした。

お兄さんは大変優秀なお弟子さんで、人々の尊敬を受けていました。兄は、ブッダの教えを四句の詩にまとめて、それを暗誦するように弟に勧めます。チューダパンタカはとても喜んで一生懸命に覚えようとするのですが、三か月たっても覚えられず、とうとうその兄からも見放されてしまいます。

自分の愚かさに身もだえして悲しむ彼の姿を見て、お釈迦さまはこう言います。「愚かなものが、自分を愚か者と知るときには、その人はむしろ智者というべきである。同じ愚人でありながら、わずかな才能を誇って、自らを智者とうぬぼれているものこそ、真の愚か者である」と。そして、一本のほうきを与えて道の掃除をしながら「塵を払わん、垢を除かん」ととなえるように教えました。

チューダパンタカは、その言葉さえも忘れそうになるのですが、まわりの比丘たちに支えられて続けます。やがて、その言葉が彼の心にしみこみ、塵とは、垢とは自分の心の中にある煩悩なのだと気づき、さとりに至っていきました。

お釈迦さまは、彼を人間として智者であると尊び、彼が救われなければ自分も救われないという心を持って願いをかけ続けたのでしょうね。

私は、このチューダパンタカという人になにか親しみを覚えます。

明順寺住職:齋藤明聖

参考:「お釈迦さまの生涯」https://mjj.or.jp/buddha_13.html