第108回:「自分だけの、ものさし」

飛騨高山の速入寺の坊守、平野恵子さんが癌という病をかかえ、迫りくる死をみつめながら、あとに残していく子どもたちへの思いや願いをつづった『子どもたちよ、ありがとう』(法蔵館)のなかに収められている「ものさしの話」です。

勉強もせず、いたずらばかりしている男の子、病気で歩くこともしゃべることもできないだろうと宣告された女の子をかかえて、自分が余りにみじめで泣いて暮らし、ついには心中まで考えたある日、男の子が小さな妹を抱きしめ、「お母さん、ユキちゃんは綺麗だね。顔も手も足も、お腹だって全部綺麗だよ。ユキちゃんはお家のみんなの宝物だもんね」。

平野恵子さんは、その言葉に、自分の「ものさし」が実は自分の勝手な思いだけで作られた「ものさし」であったことに気づいたのです。自分の「ものさし」だけを正しいと信じていた…。なんて傲慢で愚かな人間だったのだと。

自分の本当の姿が照らし出され、自覚されたところに、阿弥陀さまの光が実感されるのですね。男の子の言葉は、まさに阿弥陀さまの言葉だったのですね。

明順寺住職:齋藤明聖