第106回:「不可思議」

いい日だ
つつじの花のむこうを
老人が歩いて行く
赤ン坊をおぶっている
足どりも
軽やかだ
右足 左足 右足 左足
あっ 片足で立った
おっ 半ひねり
すごいなぁ人が歩くって
私も前は あんな見事な技を
こともなく 毎日やっていたのか(星野富弘)

星野富弘さんは、事故で首の骨を折り、首から下が動かなくなってしまいました。でも口にくわえた絵筆で美しい花の絵を描きつづけています。「れんげつつじ」の花の絵に添えられているのが、この詩です。

私たちが毎日あたりまえのこととしていることが、どんなに不思議で有難いことであったか。富弘さんは、できない体になって初めて分かったというのです。

不思議とはこういうことですね。世の中には不思議といわれることがたくさんありますが、こうして人間が生きている…。こんな不思議な事実はないですね。

科学技術の進歩のなかで、私たち人間は、物事を対象的、分析的に理解し、利用することに夢中になってきました。気がついてみると、生きた「いのち」のぬくもりをもった触れあいを失い、感動のこころを忘れてきたように思います。(宮城顗)

明順寺住職:齋藤明聖