第56回:「お経にあずかりたいのです」

「住職さん、こんど誰それの何回忌ですのでお経をあげてください」こういって法事のお願いにいらっしゃいます。むかしは「こんど誰それの何回忌ですのでお経にあずかりたいのです」という言葉があったそうです。

お経をあげるといいますと、亡くなった方のためにお経を読む。確かにその通りですが、なにかお経を聞くのは亡くなった仏さまであるという構図になりかねません。

しかし、お経のなかに願われているお釈迦さまの教えを聞いていかなければならないのは、ほん とうは私たちなのです。私たちがお経を聞いていかなければならないのです。そのせっかくのご縁を亡くなった先祖が開いてくださっているのです。私たちは、 亡くなった方のお陰でお経に遇うことができるのです。

お経を読誦するということの意味は、仏さまの徳を讃嘆(ほめたたえる)することと聞法(もんぽう)であるといわれます。「お経にあずかりたいのです」という言葉は、そうした聞法の心構えが言葉になったものなのでしょう。

明順寺住職:齋藤明聖