第33回:「心の癒しを求めて」

ふと学生時代に友人のお茶席に招かれたときのことを思い出しました。

静かなお茶室という空間のなかで、炭の香りがし、お湯の煮立つ音が聞こえ、お茶をいただく。まるで宇宙と一体になったかのような感覚を覚えたものでした。

むかしの人は、茶道、華道、香道、書道、舞などの伝統芸能や、陶芸などの伝統工芸、田植えなどの伝統的農業、仏教でいえば読経・写経・念仏・瞑想・座禅な どをたしなむことをとおして、自然と一体になって自分自身を見つめ、精神を整えていたのではないでしょうか。

いまの時代は、人間中心の合理主義に翻弄(ほんろう)され、役に立つとか立たないとかで人間を切り捨て、自分を見つめる余裕もなくすべてを他人のせいにし て攻撃的に生きている、まさに殺伐(さつばつ)とした世の中です。

そうしたなかで、私たちは切実に心のやすらぎ、癒しを必要とし、求めているといえるので はないでしょうか。真宗大谷派東京教区は親鸞聖人の750回御遠忌のテーマとして「真のよりどころを求めて」という言葉を提示しました。

これは、あなたが 還(かえ)ことのできる、本当にやすらぎ、癒され、元気がもらえるような「家」はどこですか?という呼びかけなのでありましょう。

明順寺住職:齋藤明聖